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先輩の声

県内奨学金

専門研修医
及川 慶介
Keisuke Oikawa

  • 出身/岩手県・山形大学
  • 専門分野/小児血液グループ
  • 日本小児科学会

Q. 奨学金の概要などについて教えてください。

岩手県で医師になるための奨学金は、いくつかのパターンがあります。まず一つはどこの大学に行っても「岩手県医療局」という、県から直接お金を借りて自分の奨学金として充てるものです。私が活用しているのはこれです。大学在学中は1ヵ月20万円、6年間で合計1440万円。医師になってからの12年のうち6年間、岩手県内で医療に従事すれば返還が免除されるシステムです。

もう一つのパターンは、岩手医科大学の「地域枠」です。岩手県出身者で県内医療に従事してくれる学生さんに対して6年間で約3000万円の貸与があり、おおむね国立大と同水準の支払で授業が受けられるもの。卒業後の研修2年間が終わった後、15年のうち9年間は岩手県内の医療に従事するシステムとなっています。

Q. ご自身が奨学金を受けた経緯を教えてもらえますか?

実は私は高校卒業後、東京理科大学に入学したんです。東京の練馬区で一人暮らしをしながら物理学科に1年間通いました。関東に行きたいという思いもあって、ある意味青春の続きを謳歌しましたが、少々脱線しまして…(笑)。「これはマズい」と思って軌道修正することにしました。「医師になりたい」という初心を思い出し、頑張り直して何とか大学に入ることができました。

ですが実家が医師というわけでもなく、特別裕福な状況でもなかったんです。それに岩手県で6年間働くという条件も自分にとって苦ではないという思いもあり、岩手県県医療局から奨学金を借りて大学に入る形を取りました。

というのも、幼少期は体が弱くて頻繁に小児科にかかっていたんです。1年間の4分の1くらいを病院に入院して過ごしていたので、小児科の先生にとてもお世話になりました。そうした経験もあって「いずれ岩手県で小児科医師として働きたい」という気持ちがあったんです。その初心を思い出して、出直しました。

Q. 奨学金を受けてから現在までの状況を教えてください。

山形大学に入学して6年間を過ごし、研修病院から先は岩手県に戻りました。具体的に奨学金の年数をどのように返しているかというと、研修期間2年間は岩手県立中央病院で働き、研修終了後の1年間はそのままその病院の小児科に勤務しました。まずここで義務年限の1年をクリア。その後4年目から岩手医科大学に入局して今に至ります。ローテーションで3カ月ごとに小児科の中にあるグループを回り、一度外の病院に行く3カ月があります。合計9カ月間、地域医療に従事しました。その後は岩手県立中部病院に勤務し、現在1年9カ月目。それらをトータルして、現段階で合計3年6カ月の義務年限を消化している状況です。

Q. 地域医療に従事している間、基本的には返済は発生しないということですか?

12年の間は発生しません。12年経過して、もしくは条件を満たさないというタイミングで発生する可能性はあります。

Q. 奨学金を受けるメリットはどのように感じましたか?

やはり実家が開業医ではないため、経済面では大変助かりました。国公立であれば違うと思いますが、大きな金額が必要になるので。実は2歳年下の弟も岩手医科大学の地域枠で奨学金を受け、医師になっています。

Q. 生まれ育ったこの岩手の医療についての思いなどはいかがですか?

幼少期に体が弱かったこともあって何かしら子どもの力になりたいという思いはありましたが、特に小児科に従事したいと考えた理由は「小児科医が足りない」というニュースを多く目にした世代だからかもしれません。同期でも小児科志望はかなり多いです。そして実際に小児科医は足りていないという現状を目の当たりにし、小児科に決めました。

岩手県では、県庁所在地の盛岡に住んでいると小児科医がいないわけではありません。ですが、すべての子どもに必要なだけの数がいるかというと、やっぱりいない。なにより県土が広いので、子どもに適切な医療の供給がなかなか難しいと思います。県内の広域をカバーできるだけの医療従事者が必要だと感じていますね。加えて他県と違って弱い部分は、国立大学がないということが大きいかもしれません。私立大学の学生は、岩手県出身者以外だと関東圏、関西圏の人たちが受験戦争を勝ち抜いてきます。そういった先生たちは岩手医科大学に入っても、最終的には地元に戻ってしまう可能性が高いです。そういう意味で、医療資源としての医療者を確保することの難しさを感じています。

Q. 岩手県に来て6年間生活してもらう間に、県を気に入ってもらう一つのチャンスにはなりませんか。

岩手県医療局の奨学金自体は、県外からでも借りられます。なので、やはり「岩手県の医療に従事したい」と考える人に借りてほしい…という思いはあります。その中でも都市部などの大きな病院だけでなく、市中の病院などにも従事したい先生たちがそのような意識を持って借りてもらえたらいいと思います。

Q. 奨学金を受けるにあたり、デメリットはありますか?

デメリットとして一番考えられるのは、新専門医制度下における専門医取得の際に多少のネックになる可能性があるということです。基本的に専門医制度で専門医試験を受ける資格に必要なのは、大学や専門機関、もしくは専門の指導者がいる機関での指導。岩手県内だと大学病院にいる期間と、県立病院に行くのもプログラムで決められているので、それも含めて3年くらいで専門医を取れるようになります。地域の病院だけで専門医を受ける資格を取ることは基本的にできません。奨学金の期間を消化するだけでは専門医試験を受ける資格は得られない…という部分は確認しておく必要があるでしょう。ただ、先ほど話したように3カ月ごとのローテーションの中で外部での病院勤務があるので、大学でも研修しながら外の病院でも消化して、3年で専門医試験は受けられる態勢には一応なっているという形です。

Q. 専門分野の魅力ややりがい、今後のキャリアなどはどのようにお考えでしょうか?

私が小児科の中で選んだ分野は、血液腫瘍免疫です。白血病や、固形腫瘍が多いですね。人手も必要だし、習得するのに時間もかかる分野だと思っています。症例の絶対数が多いわけではないですが、すべて岩手医科大学に来るので、ここでしか診られません。それも1カ月入院して終わりではなく、基本的に入院の治療期間だけでも6カ月〜1年という期間を要します。退院してからも10数年フォローしていかなければいけない子どもたちも多いので、人数は増えていく一方です。

白血病などは一般的には「治らない」とか「死んでしまう」というイメージだと思いますが、今は8〜9割が回復します。9割くらいの子たちは外来での治療や経過観察に繋げられるので、一般的なイメージほど深刻な状態にはなりません。その意味で、長く同じ子と付き合っていかれるという面においては非常に楽しい分野ではないかと思います。

私も実際のところようやく数年経験したばかりで、十数年続けてようやく実になるものだろうと見通しています。ですがまだ奨学金のこともあり、県立病院などに出て一般小児をやりたいという思いや、大学の専門としてやりたい思いがあるのも事実。そのバランスを取りながら、医局と相談して進めていきたいです。

Q. 奨学金を検討したり、それに準ずる状況にある後輩に向けてメッセージをお願いします。

奨学金を検討しているということは、岩手県内で医師になろうとしてくれている未来の同志。少なくとも小児科に入ってきた先生たちに関しては、子どもをしっかり診てもらえるよう全力でサポートします。奨学金を借りていても、他の人と差がつくようなことがないように配慮されている医局だとも思います。入ってきてくれる先生たちを守れるような働きかけはこれからも続けていくので、安心して小児科に進んでもらいたいです。全国の地方と同様、岩手県内も医師の偏在が課題。地域医療に協力したいという志を持っている人がいれば、どんどん岩手で医療者として頑張ってほしいです。

Tagopedia

田子秘書が見た及川Dr.の
スゴイところ!

いつも冷静に判断しお話しも柔らかく、わかりやすく伝えてくださいます。血液腫瘍グループの先生ですので、長くつらい入院生活をしている子どもたちや親御さんときちんと向き合い、一緒にがんばっている姿はとても素敵です。患者さんと長く付き合っていく分、つらくて苦しくなってしまうこともあるかと思いますが、患者さんやご家族のことを本当に大切に考え、日々診療してくださっています。

そしてグループ内の先生方との仲の良さをすごく感じます。医局でバースデーソングが聞こえるなーと思うと血液腫瘍グループの先生方が♪それぞれのお誕生日には贈り物やケーキでお祝いしたりと、本当に仲良しなんだなーと思いますし、なんだかとってもうれしくなりますし、みんなが笑顔になります!

この明るさや温かさが、患者さんを笑顔にしてくださるのだと思います。